扇子の作法
葬祭部の義積です。
今日は「葬儀での挨拶と扇子の作法」についてお話します。喪主様やご親族様が挨拶をされる際、扇子を自分の前に置いて話されることがあります。この扇子は、正式な場で使われる作法の一つです。
畳の部屋で挨拶をする場合は、正座した自分の前に扇子を置きます。テーブルの場合は、テーブルの上に置きます。これは「この扇子よりこちら側を下座とさせていただきます」という意味があり、相手を敬う気持ちを表すしるしとされています。置く向きにも作法があります。扇子は閉じたまま置き、要(かなめ)と呼ばれる根元の部分を右側に向けます。要とは扇子をまとめている金具の部分で、小さな黒いポチのように見えるところです。つまり、黒いポチが右、扇子の先が左になる向きで、扇子は閉じたままになります。
最近では、葬儀で扇子を使う場面も少なくなったと言われていますが、実際の葬儀では今でもよく見かけます。ただ、地域性もあるのかもしれません。葬儀には、香典・数珠・扇子を持って参列するのが当たり前という地域もあります。しかし、その扇子も、いざ使おうとすると「どう使えばよいのか分からない」という方も少なくありません。実際に、こっそりスタッフに質問をされることもあります。そして、「扇子にそのような意味があるとは初めて知りました」と驚かれる方もいらっしゃいます。実際、私自身もこの仕事に就くまでは、扇子にそのような意味があることを知りませんでした。
しかし、こうした作法は「知らなければ失礼になる」というものではなく、本来は“相手を敬う気持ち”を形にしたものだと思います。大切なのは、作法そのものよりも、「感謝を伝えたい」「失礼のないようにしたい」という気持ちなのかもしれません。
実は扇子には、もう一つの役割もあります。人に物を差し出すときのお盆代わりとして使うこともあるのです。香典を渡す時に、扇子を広げて相手に差し出される方もいらっしゃいます。日本には「物を直接手渡しするのは失礼」とされ、お盆などの上に載せて差し出すという考え方があります。お店でお釣りをお盆の上に載せて渡されるのと同じです。手渡しは「受け取ってください」と相手に強いる形になりますが、お盆の上に置くことで、「お好きなタイミングでお取りください」という相手への配慮になると言われています。
また、扇子そのものにも縁起の良い意味があります。閉じた状態から末広がりに開くことから、「繁栄」や「未来が開ける」という意味を持つとも言われ、祝いの席でも用いられてきました。葬儀の場では華やかさを求めるものではありませんが、日本人は昔から、道具一つにも意味を込め、相手への礼を表してきたのだと思います。
ただ、葬儀の挨拶で扇子を前に置く作法は、地域によって違いがあるとも言われています。実際には、行われていない地域もあるようです。時代とともに葬儀の形は変わっていきますが、こうした小さな作法の中にも、相手を敬い、礼を尽くそうとする日本ならではの心遣いを感じることがあります。普段の生活では扇子を使う機会も少なくなりましたが、葬儀の場では今も静かに受け継がれている作法の一つです。意味を知ることで、ただの道具ではなく、「相手を大切に思う気持ち」を形にしたものなのだと感じます。こうした昔からの作法に触れるたび、日本人が大切にしてきた礼儀や心遣いの深さを改めて感じさせられます。

